コラム

福岡市の人材公募から考える国内IT技術者の不足

福岡市が「DXデザイナー」を公募

福岡市が、行政サービスのデジタル化を推進する「DX戦略課」を新設し、民間で経験を積んだ「DXデザイナー」を公募するとのこと。
来年の1月から3月まで委嘱契約を結び、副業やテレワークで週に1、2日勤務してもらうことを想定しているようです。
副業も可としているところが、新しい時代のワークスタイルを感じさせますね。面白い取組です!
私も応募してみようかと考えてみましたが……(結論は章末で)

深刻なユーザー企業のIT技術者の不足

福岡市でも公募に踏み切ったように、急速なデジタル化が進む中、多くの国内ユーザー企業でIT人材が不足しているようです。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が毎年発表している「IT人材白書」からユーザー企業におけるIT人材の量的過不足感を過去10年分拾ってみました。

出所:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「IT人材白書」

アンケートの結果を見ると、2010年に12.4%であった「大幅に不足」という回答が2019年には33%まで増えています。
3分の1の企業で「大幅に不足している」と感じているんですね。深刻な事態です。

今回はこのIT技術者が不足している問題の背景を少し探ってみましょう。

国内IT技術者はIT企業に偏在

さらに「IT人材白書」を読み解いていくと、日本ではIT技術者のわずか4分の1しかユーザー企業に所属していないことが分かります。
米国では技術者の65%という多くのメンバーがユーザー企業に所属しているようですので、ここは大きな違いですね。

出所:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「IT人材白書」(日本は2017年、カナダ2014年、その他2016年調査)

ユーザー企業が主体的にIT化を推進し、できない部分をサポートするのが外部IT企業の役割と考えると、やはり米国型が本来の姿のような気がします。
日本のIT業界がこのような形になってしまったのは、終身雇用制度と部門間ローテーションが背景にあると考えます。
1990年前後にユーザー各社はシステム部門を次々と分社化し、現在の国内のIT業界構造が形作られました。
これら分社化も、終身雇用制度の中でスペシャリストであるIT人材の獲得と育成がうまくいかなかったことが一因と考えます。

オーダーメイドへのこだわりも問題

日本のIT人材が不足しているもう一つの理由は、情報システムの開発生産性の低さにあると考えています。
米国の企業ではおよそ半分弱がパッケージシステムを活用している一方、日本は1割強しかパッケージを活用していません。

出所:総務省「我が国のICTの現状に関する調査研究」(平成30年)

もちろん、英語圏の方がグローバルで使えるパッケージが多いといった背景も考えられます。
しかし、それ以上に「システムは仕事に合わせて作る」ことが常識となっている国内の文化が影響しているように思います。
コンサルティングの現場でよく耳にするのは、オーダーメイドで作った自社システムは「かゆいところに手が届く」が、パッケージシステムは「自社の仕事の進め方とはギャップが大きい」という声です。

本来であれば、「そもそも自社の仕事の進め方が世の中的にみて標準なのか」という点を問うべきなのですが、、、ちょっとこの話をしだすと長くなるので、また詳細は次回以降のコラムに譲りましょう。

そもそも日本のIT人材は少ないのか?

では、外部IT企業には人材が足りているのかと問われれば、これもNoのようです。上述の「IT人材白書2020」によると、26%のIT企業が人材が「大幅に不足している」と答えています。
ユーザー企業とIT企業を合計した国内トータルのIT技術者数でみるとどうなのか、ヒューマンリソシアの最新の調査データで国際比較をしてみました。

出所:ヒューマンリソシア 「92カ国をデータで見るITエンジニアレポートvol.1」

IT技術者の絶対数を見ると、やはり米国は圧倒的に多いですねぇ…
米国の総人口は日本の2.6倍程度ですが、IT技術者は日本の4.4倍程度となっています。
日本のIT技術者数はイギリスやドイツよりも多くなっていますが、残念ながら人口比率で見てみると最低のようです…(涙)

では、なぜ日本のIT技術者比率は低いのでしょう?
仕事内容や給与の魅力度が低いのでしょうか?

ユーザー企業で働くIT技術者の悲哀

ユーザー企業で働くIT技術者の仕事の魅力度を、一般社団法人日本情報システムユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2020」で調べてみました。

「IT部門が魅力ある職場と認識されているか」という問いに対し、売上高1兆円未満の企業では、2割超が「まったくそうは思わない」と回答しています。
企業規模が小さくなるほどその不満は大きくなっており、「どちらかといえばそう思わない」という回答を加えると、約4分の3がネガティブな回答となっています。
アンケートの自由記述を見てみると次のようなコメントが挙げられています。

  • コストセンターとして位置付けられているため
  • 事業部門の要件を実現する下請け部門と認識されている
  • できてあたりまえで、成果が理解されにくい
  • 保守的な仕事が多いため
  • キャリアパスが魅力的でない
  • 業務がハードなわりに処遇面で優遇されていない
  • 社長はITを金食い虫だと認識している
  • 技術的難易度が高いが、経営陣からの評価が低いため

かなり厳しい声が上がっていますね。
社長や経営陣がIT部門を適切に評価すること、既存システムの保守だけでなくデジタル化の企画等のイノベーティブなミッションを与えることなどがモチベーション向上のカギとなりそうです。

IT人材の報酬体系の見直しも重要

上述のアンケートの中でも「業務がハードなわりに処遇面で優遇されていない」との声がありますが、国内IT技術者の給与水準はどうなのでしょう。
ヒューマンリソシアの調査では、日本のIT技術者の平均年収は425百ドル弱となっており、米国平均のおよそ半額です。

出所:ヒューマンリソシア 「92カ国をデータで見るITエンジニアレポートvol.2」

他の国と比べても日本のIT技術者の報酬は高いとは言えないようです。
日本ではオーダーメイド型の受託開発中心でレバレッジが効かず、付加価値を上げにくいことが一因と考えます。
もう一つの要因としては、年功序列型賃金でしょう。
経済産業省の調査によると、米国は能力・成果主義であり30代でピークの報酬をもらえるようですが、日本は年功型のため若手の報酬が安く、入職者にとって魅力的とは言い難いようです。
枯渇するIT技術者を増やしていくためには、さらに生産性や付加価値を向上させ、能力や成果で報酬を払うということが重要になりそうですね。

おわりに

さて、福岡市の「DXデザイナー」募集の話から、国内IT技術者の不足の問題まで話が膨らんでしまいましたが、デジタル国際競争力を高めていくためには、IT業界の産業構造や報酬体系などかなり抜本的に変革する必要がありそうです。

ちなみに、福岡市の「DXデザイナー」の報酬は、日額7,000円(従事時間1時間未満)~28,000円(従事時間3時間以上)とのこと。
フルに1日働いても28,000円が最大額のようですので、月20日働いても56万円。
コンサルティングファームのチャージレートを基準に考えると、ちょっと微妙な金額だなぁと躊躇しますが、1日3時間でも良いようなので、副業として働く人にはそれなりにオイシイかもしれませんね。

私は当面の繁忙状況と報酬面を天秤に掛けて、残念ながら今回は応募を見合わせることにしましたが、ご興味のある方は是非ともチャレンジしてみてください!